会報誌「じゃたこみ」 【海外・研修レポート】
団体旅行セールスパーソンとして、社員が挑む
「海外団体販売基礎・実地研修」のすべて

更新日:2024年04月16日


座学研修プログラム : 海外団体旅行の航空運賃・立体的にツアーを見る (読む)


座学研修プログラムは、団体旅行セールスパーソンに求められる添乗業務を含む海外旅行団体販売に関する基礎的知識・スキルの学習と翌日から訪れる香港に関しての事前学習を1日に凝縮してJATA研修室で実施しました。
プログラムは6つのパートで構成され、「① オリエンテーション」、「② 海外団体の航空運賃、信頼される依頼の仕方」、「③ 立体的にツアーを見る(読む)」、「④ キャセイパシフィック航空サービス、プロダクトの紹介」、「⑤ 香港政府観光局、現地紹介」、「⑥ 海外団体の添乗業務」の順に進行しました。
講師として、JATA海外旅行推進部 (研修・試験部 兼任)の菅野副部長、キャセイパシフィック航空・東日本旅客営業部の西真理子シニア・アカウントマネージャー、香港政府観光局・東京オフィスの古谷剛マネージャー トレードマーケティング、そしてツーリストエキスパーツの外山貴美子ツアーディレクターが登壇し、各パートで講義されました。
研修参加者は全体で19名となり、3名から4名で構成される班に分かれて受講しました。

海外団体旅行の航空運賃・信頼される依頼の仕方

訪日旅行者で埋まる国際線定期便の運行本数はコロナ禍前の9割弱まで


JATA海外旅行推進部の菅野副部長は、講義の冒頭で研修生に対し「海外の航空運賃は高くなっているか安くなっているか」という問いを投げかけました。コロナ禍の前に比べ航空運賃が高騰する中、見積もり提出時にお客様から「航空運賃が高い」といった指摘を受けることがある可能性について言及し、その際になぜ高いのかを説明できるように、理論的に武装しておく必要があると述べ、この日の座学研修を進めていく中で、セールスパーソンとしての意識を高めて、前向きに受講してもらうよう促しました。


国際線の航空運賃の概要についての講義する海外旅行推進部 菅野副部長

また、菅野副部長は、日本人海外旅行者と訪日外国人旅行者の推移についてのグラフを示し、2000年以降、日本人の海外旅行者シェアが右肩下がりになっていると述べ、2023年においては訪日外国人旅行者数が2500万人を超える一方で、海外旅行者数は962万人にとどまり、コロナ禍前と比較してもまだ半分以下であると指摘しました。
このように、日本人の海外旅行者が減少しているものの、航空機は訪日旅行者によって埋まっており、国際線定期便の運航便数はコロナ禍前の9割弱まで回復しているとの現状を説明しました。

厳しい環境にある日本人マーケット


次に、菅野副部長は、日本発着の国際航空運賃についての説明の中で、国際線には日本人旅行者 (パッケージツアー、FIT、団体旅行、業務渡航、VFR (Visiting friends and relatives、友人や親族を訪問する旅行)) だけでなく、訪日外国人や(日本の空港で乗り継ぎ第3国に向かう)乗継旅客も搭乗していることを強調しました。この現状を踏まえ、日本路線の座席はグローバルで取り合っているとの認識を持つことが大切だと訴えました。
さらに、航空券の予約・購入のタイミング (平均) が国によって異なることについても言及し、例えば、イギリスでは99日前、アメリカでは71日前である一方、日本では45日前に購入される傾向にあることに触れ、他国と比べ購入時期が間際となる日本マーケットは座席を取りづらく厳しい状況にあると指摘しました。
また、日本発着の国際線の料金設定や座席提供などについて、かつては日本サイドに裁量があったが、現在は本国側でコントロールするようになっており、どの国のどのような客体に席を提供すれば、最も利益が出るかを考える、“イールドコントロール”、“レベニューマネジメント”が主流になっていると説明しました。

知識を蓄え、信頼のできるセールスパーソンに


さらに、菅野副部長は講義の中で「200名の団体と30名の団体ではどちらが安いと思うか?」と研修生に問いを投げかけました。研修生の半数以上が「200名の団体のほうが安い」と答えるなかで、現在は多くの航空会社が団体においてもダイナミックプライシング(時価)となっており、大型団体ほどスケールデメリット (航空運賃が高くなる)が生じる傾向にあることを、具体例を交えて解説し、航空運賃を安くおさえるためには分便(フライト、日付)などの提案も有効であると説明しました。
次に団体IT運賃とPEX運賃についても触れ、団体IT運賃とPEX運賃の違いやメリット / デメリットなどを整理し、「オーガナイザーから見積書の航空運賃より航空会社のHPで調べた航空運賃(PEX)のほうが安い」と言われた時でも、その違いなどをきちんと理由を説明できるようにして欲しい (それがセールスパーソンに対するオーガナイザーからの信頼につながる) と伝えました。

最後に、菅野副部長は、多岐にわたる知識が求められる海外団体案件について、知識を積み重ね、果敢に取り組んでほしいと呼びかけました。団体セールスパーソンが取り扱う案件を成功に導くために信頼を築くべき相手は、お客様だけでないこと、社内外の多くの人達の協力が不可欠であることを強調しました。そのためには、自動車王ヘンリー・フォードの言葉「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である。」を引用し、自分の都合を優先にするのではなく、相手の立場に立って考えて依頼することの重要性を伝えました。

立体的にツアーを見る (読む)

菅野副部長は、旅行会社在籍時の経験を通じて、日程表の作成や見積もり依頼、企画書の作成から添乗業務まで、「立体的にツアーを見る (読む)」ことの重要性を若い社員に伝えてきたと述べました。しかし、旅行会社の現場では、このような実践的なスキルを教えてもらえる機会が減少しており、その危機感から、この座学研修でこのテーマを取り上げたと明かしました。実際、多くの研修生が、今回、初めてその言葉を耳にしたようです。
菅野副部長は日程表の作成段階から添乗まで実際の行程を頭の中でイメージしながら組み立てることが、「立体的に見る (読む)」ことに繋がり、このスキルは国内旅行でもオーガナイザーへのプレゼンでも有効であると説明しました。

立体的に見ることで、他社に打ち勝つ見積もりを


菅野副部長は、このスキルがランドオペレーターに見積もり依頼する際に役立つと述べました。ランドオペレーターへの見積もり依頼をする際、例えばバスやガイドの手配の要否や拘束時間 (半日か終日か)、レストランの場所、予算、食事内容など行程を立体的にイメージしながらセールスパーソンとしての要望や意図を見積もり依頼に落とし込む必要があると強調しました。 (今回の香港研修日程を題材に立体的に見ることができた見積もり依頼では、簡単な日程表だけを送る (平面的な見積もり依頼) より日本円で一人当たり約10,000円安くなったケースを紹介。
この差は、ランドオペレーターが意図したわけではなく、旅行会社側 (セールスパーソン側) から提供した情報が不足していることに起因すると指摘しました。
セールスパーソンの (どうしたいかなどの) 要望は、書いていないことまで相手が予測することは難しく、詳細がわからないような丸投げの依頼では、(効率的に見えて) 結局やり取りが増えて受注に至らない結果になる傾向にあることも説明しました。セールスパーソンだからこそ知る詳細な情報を (相手の立場に立って) 立体的に伝えることで、手配内容の過不足に気づくことができ、結果的に受注率や収益率の向上や顧客満足の向上を果たすことができると述べました。

海外添乗の成否のカギを握るエスコートマスターとは ?


活用していたエスコートマスター

「立体的にツアー見る (読む)」ことは、事前の下調べや入念な準備が必要とされる海外添乗においても求められると述べました。菅野副部長は、自身の添乗時代を振り返り、海外添乗時には常に携えていたというポケットサイズのノートを披露しました。これは添乗業務を行っていた当時に使用していた『エスコートマスター』と称するものです。添乗中には、案内すべき事柄や確認すべき点が数多くあり、それらの情報をすべて詰め込んだポケットサイズのノートが 『エスコートマスター』 であると説明しました。この『エスコートマスター』を作成するためには、旅程中の1日ごとに、その日の光景を頭の中でイメージする必要があり、ここで「立体的にツアーを見る (読む)」ことが役立つと強調しました。
このような個人用の添乗マニュアルを作成することでも、手配漏れ、案内漏れ、確認漏れを防ぐことができ、また、トラブルが起きた場合にもスマートに対処できると述べました。作成には相当な時間を要しますが、現地での余裕が格段に異なってくると指摘し、海外添乗の成否は、とにかく事前準備にかかっていると訴えました。今回の研修では作成しませんでしたが、ぜひ、本番の添乗の際にはトライしてほしいと呼びかけました。

添乗中、お客様への「明日の予定」は口頭ではなく書面で配布


菅野副部長は自身の添乗において、お客様への「明日の予定」は口頭ではなく書面を配布していたことを披露しました。書面を前もって作成し、ホテルでコピーをしてもらうことで作業は増えますが、結果的に添乗員としての案内漏れを防ぐ一方、お客様にとっても集合時間や朝食場所などを聞き漏らしがなくなり、さらにお客様にとってのツアーの記念にもなると説明しました。実際の添乗でお客様から大変喜ばれた事例も紹介され、実地研修では添乗員役の研修生に「明日の予定」を作成してもらい、その有効性を体験してもらいました。


「実地研修中に作成した『明日の予定』。
左は講師が作成したお手本、右は旅程2日目の『明日の』予定として研修生が初めて作成したもの。
情報量が異なり、よりお客様へ寄り添った内容となるよう助言され、日を増すごとに改善された。

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